ある日、RECOPROJECTの佐々木さんという方が何かで僕の事務所を知ったらしく、どうしても見て欲しい椅子があるので、事務所へ伺いたいといきなり電話をかけてこられた。また家具のセールスかというくらいで、電話のやり取りをしていたのだが僕が居る時間に伺いたいと引かないので、そこまで言うのならと日時を約束して電話を切った。1週間程して彼は本当に椅子を一脚持って事務所を訪ねてきた。「ザ・チェア」の面影があるその椅子は、一般的なサンドペーパーフィニッシュの木地を荒らしたような仕上げと違い、カンナだけで仕上られた少し直線的な手触りが残る人間味溢れる温かなものだった。その時初めて木工家「徳永順男さん」のことを知った。そして、その制作に必要不可欠な鉋。日本古来のたたら製鉄法で作られる玉鋼(たまはがね)のカンナを作る鍛治師。それは兵庫県三木市の熟練の鍛冶師大原氏が、地元千種川に出向き大きな磁石で川底の砂鉄を集め数日間砂鉄と木炭を炉に入れ焼き続けて出来た純度の高い玉鋼に焼き、叩き、鍛錬して作り出す。徳永さんと大原さんの出会いがあって、初めてこのなんとも言えぬ手触りの椅子が生まれたらしい。その徳永順男さんと、大阪工芸協会の会長で染色家の平金有一氏の二人展が京都二条城近くの「ギャラリーYSD」で開催されていることを知り、作家に会ってみたくなり、日曜日の午後お伺いした。

ギャラリーは友禅染の工房が運営されており、一般向けに友禅教室等も行われているそうで、佇まいは
京都らしい町家をイメージした建物でした。平金先生も自分よりも徳永さんの仕事をもっと世に出したいと
思われていることをギャラリーの主からうかがいました。
案内された一番奥の部屋で徳永さんは一人静かに椅子の背の部分に鉋をかけておられました。
少しお時間をいただいてお話をさせていただいたのですが、自分の作品の事よりも鍛治師の
大原さんの仕事ぶりをずっとお話しされてました。
その大原さんの鉋と普通の鉋の違いを見せていただいたのですが、一般の鉋は木地に当てるとシュッ、シュッと
よく聞く削り音がします。
しかし大原さんの鉋を当てるとあまり音がしない。木地の上を鉋が滑っていくというのでしょうか、
表面を撫でていくような感じなのです。でも手で触ると確かに鉋がかかっている。
赤ちゃんの肌のようだという人もいるそうですが、確かに吸い付くような仕上がりです。
色々お話をさせていただく中で、徳永さんは大原さんが作るたたら製鉄の技法を何とか残したいと
思っていらっしゃってる。RECOPROJECTの佐々木さんもその一人なのです。
この手触りは触ってみないとわからない。僕も設計の仕事をする中で、何かお役に立てないか
考えてみました。
それで徳永さんに椅子は勿論、ドアノブや手摺りにその仕上げを使えないかお願いをしたのです。
初めて会った僕に彼は手触りの違いがわかるサンプルを送ると約束して下さいました。
近いうちに三木市の工房へお伺いしたいこと、そして大原さんにもお会いしてみたいことなど欲張りな
お願いして帰ることにしたのですが、あらためて日本の伝統工芸の奥深さを知らされた貴重な時間でした。
先日の西天満の「松弥」の大将もそうですが、自分が選んだ仕事に対する並々ならぬ拘りは
本当に頭が下がります。僕は何をやってるんだろうな!と自責の念ばかりが頭をよぎります。
「櫻山居」のKさん、「記憶の家」のYさん、一度三木市の工房へご一緒しませんか?
徳永順男さんのHP http://www.tatara-furniture.com/販売問い合わせ http://recoproject.com/