2013年9月3日火曜日

旅亭 半水盧 (はんずいりょ)








数奇屋の建物を書いた一冊の本がある。

25年ほど前、長崎・雲仙に建てられた旅館で、
バブル絶頂期に贅の極みを尽くし、
京都から数奇屋大工50人を集めて作られたそうだ。

六千坪の敷地に離れが14棟。
離れといっても1棟が30~40坪くらいあるので
これはもう立派な住まいです。

島原にある祖母の実家の墓参りで雲仙を通る度、
国道に面して長い土塀の奥が気になって仕方なかった。
看板らしいものもほとんどなく、何だろうと思う間に通り過ぎてしまう。
温泉にありがちな旅館の風情はまったくなく、
どちらかと言えば一般人を拒絶しているように思える佇まい。

ある時、「和風建築のデザイン」という本に巡り合った。
本をめくると、ずっと気になっていた雲仙の、あの土塀の向こうに広がる
光景が1棟、1棟隅々まで掲載されていた。
その時から、いつかチャンスがあったら数奇屋の勉強と
「最高のおもてなし」とはどのようなものか経験したいと思ってました。

完成したばかりの頃の写真には、木立はまだ密生しておらず
造成したばかりの何か人工的なものばかりが写っていたが、
25年を過ぎた今、鬱蒼とした木々は自然のままの姿となって
訪れる人々に安らぎと、森がこんなにも美しいものなのだということを
再発見させてくれる。

広大な敷地内を散策することよりも部屋の窓辺に寄りかかり、
日がな一日、森を見ているだけで充分に、この場所にいる事の
幸福感を感じさせてくれる。
鳥達のさえずり、せせらぎの音、木立のざわめき以外、
何の雑音も聞こえない。

台風が熱帯低気圧に変わったばかりの、嵐のような日であったけれど
窓の向こうを霧が流れ、空は数秒単位で変化したが、
それがとても心地よかった。

じっと見ていて飽きない風景がこんなにも人を豊かにしてくれるということを
知っただけでも充分に勉強させて頂きました。
これが本当に「最高のおもてなし」なのでしょう。




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