2013年9月12日木曜日

削り節

















ある料理屋さんで削り節をふりかけた一品が出た。

焼き茄子の上にはらりと乗せられた削り節に目がいった。
見た事も無い雪のような削り節だった。
小鉢を顔に近づけると、息で飛び散ってしまうほど
繊細で美しい色と艶をしていた。
あまりにも美味しそうだったので、
これをご飯の上に乗せて食べてみたいと言うと
店主は土鍋の炊き立てご飯の上にたっぷりと乗せてくれた。

息で吹き飛ばないようにそっと口に運んだ。

白いご飯と何の味付けもしていない削り節だけなのに、
何ともいえない甘みと旨みが口いっぱいに広がった。

なんでこんなに美味しいの?と店主に聞いてみた。
そうすると店の奥から2種類の薄い紙箱を持ってきた。

中を開けると違う削り節が入っていた。
2種類を小皿に取り分け匂いを嗅いで口に入れてみて下さいという。

同じ時間に削った1本の鰹節なのにまったく違う匂いがする。
少し黄色がかった方は魚の生臭みと雑味があった。
薄いピンクがかった方は仄かな旨みの香りしかしない。













(西天満「松弥」にて)

何が違うのだろうか。。。。1本の同じ鰹節なのに。

黄色みのある方はよく見かける削り節の色。
でもこれは返品なんだそうだ。
自分の店ではこれは使えないと持ってきた業者さんに言うと
慌てて薄いピンクのものを「自分の店の削り節はこれです」と
社長が持って来たそうだ。

黄身がかった方は削り方が粗いので酸化しているのだそうだ。
確かに薄いピンクのもは肌理が細かく、
シルクのような艶と滑らかさがあった。

店主曰く、削り節は本当はガラスで削るのが一番いいそうだ。
切り口がシャープで鉋の鉄の匂いがつかず、そして酸化しにくいんだそうです。
鰹節一つにしてもそれだけの拘りや思いがあるのですね。

小さい頃、夕食前に必ず母親から鰹節を削りなさいと
四角い木箱と薄い透き通ったルビー色の鰹節を渡された。
あれは嫌々ながら削った鰹節だから、本当は美味しくなかったんだろうな。

ある時、京都の料理屋さんで、伊勢神宮に献上された鰹節を払い下げられ
賜ったものを料理として出されたことがあった。
びっくりするような香りと色艶そして旨みがあった。

そのことを店主に話すと「山口さんそれは最高の鰹節ですよ」と言われた。

私も含め物作りの職人は自分の前にあるものと、
真剣に向き合わないだめですね。





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