2009年7月6日月曜日

法隆寺宝物館とクレマトリウム


東京へ出張した折、時間があれば必ず立ち寄るのが
上野公園の東京国立博物館の敷地内にある「法隆寺宝物館」だ。
設計は谷口吉生さん、平成11年度の建築学会賞受賞作品でもある。

周辺の建物と比較すると、とてもモダンで現代的ではあるが、
建物の姿を映す反射池の中道を進み建物内部に入り、
あらためて池を見返すと、深いキャノピーとガラス張りのファサードを構成する
垂直方向の方立てが、日本の伝統的な障子の現代的解釈であるように思われる。
そしてガラス越しに、池を挟んだ向こう側に黒門とそれを包む緑がたまらなく美しく見える。
その静寂さはステンレスとガラス、ライムストーンと鉄筋コンクリートに囲まれた
現代建築の中にいることを忘れさせてくれる。
そして豊かな空間が内外部に広がる。とても好きな空間の一つです。


アプローチは黒門横から池に向かい建物を正面に見ながら右に折れ、今度は
左に折れて池を渡りキャノピーに到達する。この間合いが好きです。

エントランスホール内部、天井が高く空間に静寂が宿る。

キャノピーと、エントランス内部から黒門方向を見る。静かに連続する
波紋が静寂さの中で光と戯れる。
エントランスの開いた明るい空間に対し展示室は閉じた静かな空間になっている。
中2階の資料室。法隆寺献納宝物デジタル・アーカイブと関連図書が閲覧できる。
この日は外国人向けのレクチャーが行われていた。壁から突き出たライトが面白い。


もう一つはベルリン郊外にあるクレマトリウム。
クレマトリウムとは「火葬場」のことですが、この建物ドイツ首相府などを
設計しているアクセル シュルテス1998年の作品。

とても火葬場とは思えないほど、荘厳かつ崇高な静寂に包まれた空間は
訪れたものをすべての人を神聖な気持ちにさせるオーラに包まれている。

突然の雨の中、3時間ほど歩いてたどり着いた林の中のこの建物は、
靄(もや)に包まれ、そこが斎場であることをまったく忘れさせる建物だった。
抽象的な解釈による森の巨木が樹立する様をコンクリートの柱で表現し、
その頂部からは光がこぼれ落ち、コンクリートの壁面を照らしていく。
 
シンメトリーな建物と植栽。屋根に開けられたスリットからは光が差し込み
その開口部は建物を貫通する。内部には3つのチャペルが用意されている。
      
抽象的な森を表現した斎場部分。コンクリートの柱頂部から光が落ちる。
静寂さの中に荘厳さが満ち溢れている。コンクリートの壁面は外部から貫通した
スリットにより光の帯となる。
      
ちなみにこの建物、シャーリー・セロン主演のSF映画「イーオン・フラックス」
の舞台にもなってます。バウハウス博物館なんかも出てきますので、興味の
ある方はDVDでどうぞ!


法隆寺宝物館は水(前池)に建物を映すという、日本の伝統的な配置計画により静寂さと
空間の豊かさを獲得し、クレマトリウムはシンメトリーな建物と、それをことさら強調するように
均等に配置された樹木とその外側を包む木立により、西洋的な静寂さと緊張感を得ている。

私にはこの2つの建物がまったく違う用途でありながら、類似した精神性や静寂さを獲得して
いるような気がしてならない。
「宝物館と斎場」とうい異なる意味の建物ではあるが、その内部空間に感じるものは
人が心の奥底に持つ歴史性や畏敬、尊厳という部分において同一ではないかと思う。
それぞれの建物の内外部空間のそこここに、設計者の精神性を感じ取ることができる。
二つの建物は静かに佇んではいるが、心を揺さぶる名建築の1つだと思う。


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